美しく散るという気持

 誰の作かわからぬが比島における海軍の神風特攻隊が発進した頃、

今日咲きて明日散る花のわが身かな
如何でその名を清くとどめん

 という歌が、特攻隊員の間に口伝えられたという。お国の為に命を投出すのは美しいことだという思いがあった。
第2空挺団(通称高千穂部隊)がルソン島のクラーク地区でレイテ空挺作戦の準備をしていた時、この地区には多数の飛行場があって、海軍の先陣敷島隊は10月25日マバラカットを発進し、陸軍の一番手富嶽隊も11月7日クラークを発進した。そのようなことが近傍の南サンフェルナンドにいた高千穂部隊にも伝わってくる。レイテ空挺作戦は12月6日に行われることになった。主力はブラウエン飛行場群に降下するが、敵の中枢飛行場タクロバンにも選抜した小部隊を降着させるが、これは全く収容の見込みがないので特攻隊として志願者を募集した。N曹長は真先に手を挙げてこれに加わった。この人の搭乗機はレイテ湾に撃墜され、一晩浮游し敵に捕らえられ生き長らえるのだが、戦後当時の心境について語った。どうせ死ぬなら華々しく戦って死のう。特攻隊と聞いて美しさを感じたという。
そのような思い出を詠い込んだものは数多く見出せる。

●岩本益臣大尉

陸士53期27歳、万朶隊長。

 万朶隊は富嶽隊と共に陸軍最初の特攻隊、99双軽、鉾田で編成しルソン島リパまで進出したが、19年11月5日隊長機は要務飛行中グラマンの攻撃を受け撃墜され搭乗員全員戦死した。

武士は散るもめでたき梅の花
花をも香をも 人ぞ知るらん

●川島 孝中尉

航士56期23歳、万朶隊岩本隊長と同乗戦死。

九重の御階の花と散らんこそ
我れもののふの思いなりけり

●高橋安吉一等飛行兵曹

丙飛12期22歳、神風特別攻撃隊月光隊、19年12月28日ミンダナオ海航行中の輸送船団に突入。

大空に国の鎮めと散り行かん
大和男子の 八重の桜と

●壁書 読人不知

レイテ空挺作戦の際挺進第三聯隊の宿舎となっていた南サンフェルナンドの製糖工場の壁に、次の歌が書き残されていた。

花負いて空うち征かん雲染めん
かばね悔なく吾等散るなり

(こちら以下が2002/3/17更新)

●棟方哲三少尉

義烈空挺隊 前出。

君が代はちよよろづよといく春も
匂ひ忘るな 若ざくら花

●今村美好曹長

義烈空挺隊 前出。

奥山に名もなき花と咲きたれど
散りてこの世に香りとどめん
(奥山とは隊長名)

●諸井守曹長

義烈空挺隊 前出。

大和桜散りゆくときは君が為
何をかなさん なさでやむべき

●増田利雄軍曹

少飛11期21歳、飛行第105戦隊、昭和20年4月11日台湾宣蘭発進、沖縄中城湾へ。

散るために咲いてくれたか桜花
散るこそものの見事なりけり

●小室静雄少尉

横浜高商飛行予備学生13期23歳、第一護皇白鷺隊、昭和20年4月6日串良出撃沖縄へ。

栄えある国に生れしこの恩は
桜の花と散りて返さむ

●小林昭二郎二等飛行兵曹

甲飛12期20歳、第一護皐白鷺隊、昭和20年4月6日串良出撃沖縄へ。

散りぎはは桜の如くあれかしと
祈るは武士の常心なり

●藤村勉二等飛行兵曹

乙飛18期19歳、第一護皐白鷺隊、昭和20年4月6日串良出撃沖縄へ。

咲く桜風にまかせて散りゆくも
己れの道ぞ顧みはせじ

●長島義茂二等飛行兵曹

甲飛12期20歳、第一護皐白鷺隊、昭和20年4月6日串良出撃沖縄へ。

散る日まで静けく薫れ敷島に
雄しく咲きしますらおの花

●海田茂雄少尉

愛媛師範飛行予備学生13期20歳、第一護皐白鷺隊、昭和20年4月6日串良出撃沖縄へ。

いさぎよく散るこそ武士の道と知れ
恵を受けし君が御為に

 以上5首はどれも同一部隊で、4月6日串良を出撃しているが、大隅半島中部の串良では桜は散る頃、この人達の心情は痛いほどわかる。現在飛行場跡には高い碑が建ち、3千本の桜が植えられ、桜の名所となっている。本土の桜前線はここから始まるとされる。聳え建っている塔の上には羽を拡げた鳩がしつらえているが、手前の慰霊橋の上で塔に向かい柏手を打つと、塔の上の鳩が「グッグッ」と鳴く。それはここを発った359柱の特攻烈士の応答か。

●吉沢久與飛行兵長

乙特飛1期18歳、第3御楯706部隊、昭和20年4月7日宮崎出撃沖縄へ。

山桜散り行く時に散らざれば
散りゆく時は既に去りゆく

 同じような心情の現れは他にも見られる。義烈空挺隊の阿部忠秋少尉は色紙に書き残した。
”散れ散れ散るならパッと散れパットね”この人は「後に続くを信ず」の章で出した梶原哲己少尉と同様、中野学校出身者である。

●岸 誠一少尉

関西大特操1期24歳、第43振武隊、昭和20年4月12日知覧出撃沖縄へ。

後れじと散りゆく花ぞわれもまた
大和島根に香りとどめて
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