第三編 顕彰譜

年頭の御挨拶 年頭の御挨拶

靖國神社宮司

山口建史

 明けましておめでとうございます。
 令和四年の壬寅を迎え、まずは皇室の弥栄を寿ぎ奉り、我が国の平安と特攻隊戦没者慰霊顕彰会の皆様方の御多幸と御健勝をお祈り申し上げます。

人々の願ひと努力が実を結び
平らけき世の到るを祈る

 昨年の歌会始の御儀で今上陛下がお詠みになられた御製でございます。新型感染症の発生以来、私たちは不安な日々を過ごしておりますが、古来より国家の安泰と国民の安寧を祈られる天皇陛下の大御心を体し、国民の叡智の結集により超克していかなければなりません。

 私たちは、これまで戦争や自然災害等多くの国難を経験してきました。今回の新型感染症を契機に従前の常識や慣習が見直され、新常態の時代に移行しているように見受けられます。ウィズコロナ・ポストコロナの社会において大局的な視点に立ち、不易流行を見極めることが肝要であります。
「一日生きることは、一歩進むことでありたい。」ノーベル物理学賞を受賞された湯川秀樹博士の言葉の如く、不断の努力によって大きな果実を実らせ、一歩前進した社会の形成を目指すべく邁進しなければなりません。ワクチン接種が進み、有効な治療法が確立されつつある今日、これまで蓄積されてきた科学的データや知見が社会経済活動の両立、活性化において必要不可欠な体制構築の一助になることを期待致します。

 さて、今から六十年前の昭和三十七年、高度経済成長の最中、東京の人口が一千万人を超えました。人口の都市集中化や核家族化の進行により国民生活の価値観が多様化し、地域社会における共同体意
識の稀薄化がもたらした影響ははかり知れません。他人の命、自らの命をも軽視する今日の世相を私たちは看過してはなりません。国事に殉ぜられた御祭神は日本の現状を如何に御覧になられているで
しょうか。究極の利他の精神を体現された特攻隊の方々に思いを致すとき、互いを敬愛し、尊重し合う精神こそが真の道義国家建設への端緒になるものと存じます。

 戦争を経験していない世代が全人口を占める時代を目前に控え、如何にして御祭神の御遺徳を顕彰していくかが喫緊の課題でございます。今も尚、靖國神社が政治や外交問題の渦中にあり続けること
は、御祭神に対し洵に申し訳なく存じます。国民一人一人が、政治的信条・宗教の壁を越え、わだかまり無く、自然なる慰霊の心情の発露によって、神前に額ずき、感謝の誠を捧げることができる世の中になることが、いずれや戦歿者追悼の中心的施設である靖國神社の明るい将来に繋がるものと確信致しております。改めて靖國神社悠久の御安泰のため、不退転の決意を申し上げる次第でございます。

 結びにあたり、本年も当神社に対し格別なる御高配をお願い申し上げると共に、皆様方にとりまして実り多き年となりますよう祈念申し上げ、新年の御挨拶と致します。